STAFF・CAST

STAFF


『RErideD-刻越えのデリダ-』
佐藤卓哉&安倍吉俊 インタビュー

■広い世代に刺さる気持ちの良いジュブナイルSFに

――まず、本作を作るに至った経緯から教えていただけますか?
佐藤:オリジナル企画を立ち上げるというお話があって、どんな作品が良いだろうかとなった時に、僕の方から“時間もの”をやりたいという提案をさせていただきました。それも今風のハードなSFではなく、若い層にも楽しんでもらえる、『ねらわれた学園』(映画・1982年)のような、昔のジュブナイル風の連続ドラマ的なものをやってみたいと。
個人的にはSFのハードな部分というのも好きですが、展開が難しくなりがちで、付いていけなくなる時があるんです。今回はそういう部分は極力なくし、特に普段、SF作品に馴染みのない方でも楽しめるものにしたいと思いました。
それを念頭に、“時間もの”ではあるものの、タイムパラドックスの詳細な設定や理屈にはあまり踏み込まず、最終的に感情が揺さぶられるような、見ていて気持ちの良いものにしたいという思いで取り組んでいます。
「ジュブナイル」はそのキーワードですが、単純に低年齢層向けの簡単な作品にしたいわけではなく、間口を広く持った作品にしたいという気持ちです。

安倍:僕が話を持ち掛けられたのが2016年の6月なので、企画が進み始めてから1年後くらいですね。「SFだけど理屈っぽくはしたくない」というのはその時にもお話されていて、例えとして、『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン著のSF小説/1956年)の話も出ましたね。

佐藤:ジュブナイルSFに、プラス詩的な雰囲気を加えたいとも考えていたので、そのイメージとしてですね。まあ、だいぶ古い作品ですが、「ああいうものをやりたいんだけど」とお伝えして。

安倍:ただ、僕が『夏への扉』を読んだのは高校の時なので、あらすじをほとんど覚えていなかったんですよね。とにかくすごく読後感が良かったということしか記憶に残ってなかったんですが、佐藤さんからは「そんな感じでいいです」って(笑)。
読み返そうかとも思ったんですが、佐藤さんが大事にしたいのは今でも覚えているその読後感だと思ったので、当時の印象だけをキープして、後の世界観は自分で考えることにしました。
――イメージから実作業に行く上で、世界観の構築やビジュアルワークスにはどのような形で入られましたか?
佐藤:安倍さんへの打診の前にまず音のイメージがあり、世界観を想像した時に真っ先に思い浮かんだのが井内舞子(『とある魔術の禁書目録』シリーズ主題歌・作編曲など)さんの音楽でした。当時携わっていた作品でも井上さんが音楽を担当していらしたんですが、その時はインダストリアルテクノ系の音作りだったんですね。でも、僕にはその中に叙情的な、メロウな部分がポロポロと垣間見えたんです。今回、僕が思い描く世界観には井内さんが持つそのメロウな部分が合うんじゃないのかと思い、お願いさせていただきました。
ビジュアルワークスに関しては、安倍さんのことを閃いた時に「ありかも」と思ったのが始まりですね。作中に出てくるDZ(自律機械)のラフだけは自分で描いていて、「こんなのがウヨウヨしている世界で…」という美術的な説明をしたのを覚えています。

■アニメで綺麗に動く絵に。安倍吉俊に課した“禁じ手”

――安倍さんは各話のプロット、脚本も書かれていますが、当初からビジュアル以外も打診されていたのですか?
佐藤:いえ、その時にはまだ。というより、どこまでお願いするかはあえて決めずにいたんです。忙しくて断られたら仕方がないと思いつつ、ビジュアル面だけ頼んで終わり、とかにはしたくない。少なくとも僕の方はそういうつもりでした。

安倍:僕はキャラクター原案と世界観の視覚的構築がメインだと思っていて、紆余曲折を経て、最終的にまさか脚本まで書くことになるとは思ってもいませんでした(笑)。

佐藤:あの時に「絵だけ」と言わなくて良かったです(笑)。やはり完成したものを見ると、キャラクター原案だけでなく、作品全体のアートディレションとして安倍さんの役割は非常に大きい存在となっているのが分かります。スタッフも、「安倍さんの世界を出さないと」という気持ちで描いてくれていましたから。

安倍:ありがたいですね。僕は自分の描きたい世界が頭に浮かぶと、後の微調整がなかなか効かなくなるタイプなので。出したものに対してジャッジをしてもらうというスタンスで描くことが多いんです。
――漫画やイラストはご本人直接の絵ですが、アニメーションではデザイン原案を元に、“他の方が描く”という大きな違いがありますね。
佐藤:それに紐付くことですが、セル(アニメ)での見栄えが良いキャラクターにしたいという思いがあり、安倍さんには失礼ながらいくつか禁じ手をかける制限を出させてもらいました。
具体的には「線を増やさないように、難しいグラデーションもあまりかけないで。セルの塗り分けで綺麗に見えるはっきりしたデザインにしてほしい」というお願いを。安倍さんの持ち味を封印してほしいと言ってるのに等しいので、若干引かれていたと思います(笑)。
でも、ただ無茶振りをしたわけでなく、『リューシカ・リューシカ』(スクウェア・エニックス刊)がそういう画風だったんですよ。セル塗りに近いシンプルな表現でありながら、安倍吉俊テイストはそのまま生きている。そこにアニメに通じる力を感じたんです。

安倍:『リューシカ・リューシカ』は速く描くために身に付けた画風だったんですよね。過去に普段のイラストの絵で漫画を描いて160ページ描くのに3年半かかった事がありました。読みやすく量産できる絵でありながら、僕の個性は消さないということを目標に始めた描き方です。
キャラクター原案は過去にも経験がありますが、キャラデザイナーが僕の原案を翻訳し、アニメ設定画として変換した絵を見ると、“自分の絵は線が多い”と感じてはいたんです。それが僕の絵の特徴ではあるんですが、今回それをあえて禁じられたのはむしろやりがいに繋がることでした。僕としてはできるだけ自分の絵のままで動いてほしかったし、作画作業の大変さも知っています。ですから、線を減らすことには納得した上で参加しています。
ただ、そう意識したものの、線を減らして描くというのは思いのほか難しかったです。今までは輪郭を何本かの線で描いていて、それは「見る人自身が一番綺麗だと感じる線を選んでくれたら」という思いがあってのことだったんですが、今回は見てもらうための線を自分で絞らないといけない。苦労というか、色々と発見があり、やりがいのある課題だったと思います。

佐藤:線を減らしてと言いつつなんですが、本来絵というものは1本の線だけで表現しきれるものではないんですよね。迷い線もあり、それがあるから生々しい表現が生まれるんです。安倍さん本来の線の多さは密度や命を感じさせるものですが、アニメーションになると粗に見えてしまう。そのジレンマは僕の方にも大いにありました。

■観て楽しめる'80年代SF映画のような未来感溢れた世界に

――オートマタ、タイムライドなどのSF部分の構築はどのように進められたのでしょうか?
佐藤:そこは僕の仕事ですが、前提として、あまりにも既視感のない世界にはしたくないという考えがありました。未来SFですが、リアルに未来を考証してしまうと、映像的にはどんどんつまらなくなっていってしまうんです。 物が小型化し、透明化し、iPhoneXみたいなものが1つあれば済んでしまう世界。現実的には便利でしょうが、エンターテインメントの映像としては魅力がありません。見せるためにしっかりシルエットが立った個性あるガジェットが必要で、その時にいつも思い浮かべるのが『ブレードランナー』(1982年・アメリカ)に代表される’80年代のSF映画なんです。 出てくる道具がやたら大きいんですが、一連の映像として違和感がなく、むしろ未来感を窮屈さも含めて演出していると思います。映像のガジェットとしてはこちらの方が正しくて、あまりすっきりした世界は遊び心もなくつまらないと思いますね。 未来考証に照らし合わせれば「ユーリィのメガネはどうなのか?」という議論は出るかもしれないですが、記号となる物は残したかったんです。車は車だし、それを無理に別の物に置き換えることは止めようと。

安倍:風景にしてもそうですね。見たことのない未来的な光景でなく、気持ちの入りやすい風景を。言うなれば未来的な要素と今とか地続きになった風景ですね。参考にしたのはドイツの風景ですが、そこは佐藤さんからのアドバイスです。

佐藤:ドイツの自然や町並みはシルエットが立っていて、美しさも含め、舞台としての説得力があるんです。古い町並みのようでいて、そこが実は未来と言われても違和感はない。ドイツは不思議と時代感を感じさせない景観を持つ国なんですよね。
――キャスティングについてはいかがでしたか。希望は出されたのでしょうか?
安倍:基本的に僕は世界のイメージが湧く時、そこに音はないんですよ。無音の世界。ですから音楽やキャスティングについてはお任せです。

佐藤:無音って何か格好良いですね。僕は逆で、何をイメージするにもまず音が先に来ます。先程の井内さんの起用もそうですが、どんな音が合うか、楽器なら何がいいか。デジタルなのかアナログなのか。その世界で地面を歩いたらどんな音がするのかとか、とにかく細かいところまで想像が広がっていきます。
効果音、環境音自体が好きなので、絵を決める際も「この絵は良い音がしそうだな」という風に、逆算する部分があるくらいです。安倍さんとは面白いくらい真逆ですね(笑)。
キャスティングについてはオーディションを行いました。具体的なリクエストはしませんでしたが、音響監督の長崎行男さんには、「喜怒哀楽をしっかり表現する演劇的な気持ち良さを大事にしたい」とお伝えしていました。イメージとしては海外ドラマの吹き替えに近いです。明らかに「芝居をしています」という体なんですが、それが楽しいという。

安倍:オーディションはどのような様子だったんですか?

佐藤:皆さん、気持ち良さそうに演じられていたと思います。嬉しい時は嬉しさをしっかり出す。そういう芝居は役者だけでなく、聴いているこちらも気持ち良くなるものですね。

■佐藤と安倍、2人の感性で生まれていった登場人物たち

――デリダ、マージュ、ユーリィのビジュアルが公開されました。それぞれどのようなキャラクターなのでしょうか?
佐藤:デリダは見た目の印象は頼りになりそうなイケメンですが、実際にはまだ青臭さが残る若輩者です。流してクールに振る舞えばいい場面でもついカッとしてしまったり、そういう高校生のようなメンタリティがまだ残ってるキャラクターで、ジュブナイルという点では、作中、デリダが一番揺れ動く人間だと思います。原案イラストがキリッとした青年なので、オーディションではキャストさんたちから誤解されがちでしたが。

安倍:デリダは優秀な研究者という設定だったので、僕も当初はかなりしっかりした青年をイメージしていたんです。最初に提出した時は、「もっとだらしなくしてほしい」と言われましたね。表情集で添えた、何となくヘロっとした感じの顔を見て、「この感じ!」って。
最初は会社の社長でしたが、いつの間にか社長の息子になっていましたね。何か思うところがあったんですか?

佐藤:帰宅中、突発的に「親父を作ろう」と思ったんです(笑)。

安倍:閃きですか(笑)。でも、デリダの未完成な部分を考えた時、確かに父親の影響みたいなものがあった方が良かったですね。反発心も含めて。
――マージュとユーリィはどちらがメインのヒロインになるのでしょうか?
佐藤:どちらがというわけでなく、ダブルヒロインに近いポジションです。落ち着いた雰囲気でどこかミステリアスな様子も見せるマージュと、明朗快活で感情表現が豊かなユーリィ。2人のキャラクター性は分かりやすい対比で描かれます。

安倍:実は企画初期はユーリィがいなかったんですよね。僕がシナリオ会議で口を挟んでしまって……。

佐藤:いや、良い形で入ってきてくださったと思いましたよ。安倍さんの提案は「どうでしょう?」ではなく、「こうです」という断言だったのが面白いところでした。なぜそこまで断言できるのかと半分驚きながらも、それを取り入れることで色々なことが解決するという感じで。そこからですね。壁が決壊して、安倍さんが積極的に意見を出してくれるようになったのは。その流れで、この際だから脚本までお願いしますと(笑)。

安倍:つい口を挟んだばかりに(笑)。
――ユーリィが追加されたということは、安倍さんはその時点でのキャラ配置に何か足りない部分を感じたわけですよね?
安倍:最初はデリダとマージュが組んで、望まない方向に進んでしまった未来をタイムライドで変えるために行動する、というような筋立てだったんです。それが僕には今ひとつピンと来なかった。それで検討を重ねていくうちに、デリダがマージュの行方を探すという話を思いつきました。
佐藤さんがおっしゃるマージュのミステリアスさが上手く咀嚼できずにいて、そこでマージュを隠された存在にする事でそれを乗り越えられるのでは、と思いました。それで余計なことかもと思いつつ、自分なりのプロットを作り、見ていただいたんです。

佐藤:プロットを読み、「これはいけるかも!?」と思いました。閃いたのが、デリダに同行者を付けること。マージュとは逆の快活な女の子を設定してみたところ、キャラクターが一気に動き出していったんです。読んでいて気持ちが良いし、話を動かすきっかけにもなっていく。それをユーリィとして、すぐにキャライメージを描いて安倍さんに送りました。「快活な感じでメガネあり!」というようなことを添えて。

安倍:そうですね。すぐにイメージ案が来ましたね。

佐藤:安倍さんからも真っ先にユーリィのキャラクター原案ラフが上がってくるという。それくらい突破感がある打開点だったかもしれないですね。考えてみれば単純なことで、マージュという見えないキャラクターを描くにしても、デリダが知らない部分もあるわけです。それを埋めて、マージュの輪郭を作る手助けをしてくれるパートナーが必要だったんですよね。
――最後に、放送を待つファンにメッセージをお願いします。
安倍:約15年ぶりにアニメの仕事に携わることができ、とても嬉しく思っています。しっかり形にでき、皆さんに楽しんでいただける作品にできたと思いますので、ぜひ見ていただけると嬉しいです。

佐藤:まずは、ようやく発表できるというのが素直な気持ちです。プロジェクトがスタートして、キャラクターデザインをお願いした時から考えると、安倍さんとは随分と長く一緒に作品を作っているという印象で。ここまで密接になれたというのは率直に嬉しいです。本作で安倍さんは、“イラストレーターがキャラクターデザインで参加した”という言い方では割り切れないほど濃密な関わり方をしてくださっているので、そこも含めてぜひ楽しみにしていてほしいです。
<プロフィール>
佐藤卓哉 アニメ監督、演出家、脚本家。
『STEINS;GATE』監督、『selector infected WIXOSS』『selector spread WIXOSS』監督、『舟を編む』シリーズ構成・脚本 ほか

安倍吉俊 イラストレーター、漫画家。
『serial experiments lain』『TEXHNOLYZE』原作・キャラクター原案、漫画『リューシカ・リューシカ』 ほか


※安倍吉俊さんの「吉」の字は、上が「土」が正しい漢字です

CAST